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ウィザードブックシリーズ Vol.168



悩めるトレーダーのためのメンタルコーチ術
自分で不安や迷いを解決するための101のレッスン

別著
『トレーダーの精神分析』
も好評発売中!

2010年7月発売/四六判 上製本 742頁
ISBN 978-4-7759-7135-2 C2033
定価本体3,800円+税

著者 ブレット・N・スティーンバーガー
訳者 塩野未佳



著者紹介 | 目次 | 関連書籍  ◆立ち読みコーナー まえがき ・ はじめに ・ レッスン101 自分の道を見つける ・ 訳者あとがき(本テキストは再校時のものです)
著者

ブレット・
スティーンバーガー

原書

『The Daily
Trading Coach』

自分で不安や迷いを解決するための101のレッスン

自分も知らない内なる能力をセルフコーチで引き出す!
不安や迷いは自分で解決できる!

トレーダーはだれでも企業家である。創業間もない企業が創業者の力量に頼らざるを得ないのと同様、マーケットでのキャリアもそのトレーダーだけが持っている資産、すなわち性格をはじめとした個人的資質と当初資金に大きく依存する。自身もアグレッシブなトレーダーであり、ヘッジファンドやプロップファーム(自己売買取引の専門業者)、投資銀行のトレーダーたちの指導にも当たっている著者のブレット・スティーンバーガーは、トレーダーが生まれつき持っている個人の資質、つまり生涯にわたって配当を払ってくれることになる自分自身について理解するのを長年にわたって支援してきた。本書では、読者のトレードの目標だけでなく、人生の目標にも焦点を合わせ、自分のトレード心理をコントロールするのに役立つ手段をあらゆる角度から示してくれている。

本書は101のレッスンを収録しているが、どれも同じ形式で、数ページ程度にまとめており、トレーダーが直面する日々の難題や悩み、その難題や悩みに立ち向かい解決するための方法、そしてその方法を実践するためには具体的に何をどうすればいいかなどの提案を盛り込んでいる。レッスンでは、精神力動療法、認知療法、行動療法といった短期療法の手法を用い、問題ある行動パターンを確信の持てる新たな行動パターンに変えていくときの具体的な指示を含め、トレード心理学やトレードの成績に関する幅広い話題を取り上げている。各章はそれぞれ独立しているので、最初から順番に読んでも構わないし、そのときどきのトレードに最も適したレッスンやそのときに抱え込んでしまった悩みを目次から探し出して読んでも構わない。また本書では、インターネット上に成績を公表している18人の成功したプロのトレーダーのセルフコーチングに関する見識あふれる見解も紹介している。

本書の狙いは皆さんが自分のトレードのセルフコーチになるのをお手伝いすることだが、それはひいては皆さんが自分の人生のセルフコーチになるのをお手伝いすることでもある。トレードするとき、つまりリスクと向き合いながらリターンを追求するときに直面する難問や不確実性や悩みや不安は、トレードというビジネス以外の職場でも夫婦・親子・恋人関係でも、同じように直面するものである。本書では、読者自身も知らない、無限の可能性を秘めた潜在能力を最大限に引き出すとともに、それを十二分に発揮するための道筋を示し、明日から適用できる実用的な見識や手段をさまざなま角度から紹介している。


本書への賛辞
「素晴らしい本だ! 文章も分かりやすく、未熟なトレーダーや経験豊富なトレーダーをセルフコーチングの手法で導くユニークな内容で、やる気を高めてくれる。これはスティーンバーガー博士の最高傑作であり、トレーダーの書斎にはぜひとも置いておきたい1冊だ。友人たちにも本書を推薦する」
――レイ・バロス(レイ・バロス・トレーディンググループCEO)

「スティーンバーガー氏はトレーダーが困難を切り抜けるのを長年支援してきた。分かりやすく書かれた本書は、マーケットで大成功を収めたいと願うトレーダーの必読書だ」――チャールズ・K・カーク(ザ・カーク・レポート)

「ブログの読者からは親しみを込めて『ドクター・ブレット(ブレット博士)』と呼ばれている博士が、セルフコーチングの実用的な指針をこの素晴らしい本にまとめてくれた。博士が示した戦略は、数々の資料と実践でより強固なものになっているため、読者はそれを参照し、常に最新の行動指針に従って行動することができる。トレードや投資のレベルアップに関心のあるトレーダーには、本書を読むように、また不変の教材として座右の友にするようにと熱心に勧めている」
――ブライアン・シャノン(http://www.alphatrends.net/、『テクニカル・アナリシス・ユージング・マルティプル・タイムフレームズ』の著者)

「スティーンバーガー博士は、トレーダーとして、また心理学者兼コーチとしての長年の経験を本書の101の実用的なレッスンにまとめてくれた。この101のレッスンは、トレーダーがよくぶつかる難問や悩みを克服するための効果的な戦略を示してくれている。本書は真剣なトレーダーの本棚には欠かせない1冊になるはずだ」
――マイケル・セニーザ(TraderMike.net の株式トレーダー兼ブログ執筆者)




著者/ブレット・N・スティーンバーガー(Brett N. Steenbarger)

ニューヨーク州シラキュースにあるSUNYアップステート医科大学で精神医学と行動科学を教える准教授。自らもアグレッシブなトレーダーであり、「トレーダーフィード(TraderFeed)」という人気ブログを執筆している。ヘッジファンド、プロップファーム(自己売買取引の専門業者)、投資銀行のトレーダーの指導も行っている。また、『トレーダーの精神分析――自分を理解し、自分だけのエッジを見つけた者だけが成功できる』(パンローリング)、『精神科医が見た投資心理学』(晃洋書房)の著者でもある。デューク大学で理学士号を、カンザス大学で臨床心理学の博士号を修得。トレーダーやマーケットの心理に関する
ブログも執筆している。

■目次

まえがき
謝辞
はじめに

第1章 自己改革―プロセスと実践

 レッスン1 情動を利用してチェンジエージェントになる
 レッスン2 社会的認知とセルフコーチとの関係
 レッスン3 自分の短所と仲良くする
 レッスン4 環境を変え、自分自身を変える
 レッスン5 焦点注意で感情を転換する
 レッスン6 適切な鏡を見つける
 レッスン7 焦点を変える
 レッスン8 生活を変えるための脚本を書こう
 レッスン9 自信をつけるにはどうすればよいか
 レッスン10 自己改革を推し進め、長続きさせるための五つのポイント
 参考

第2章 ストレスと不快ストレス―トレーダーの創造的なコーピング

 レッスン11 ストレスを理解する
 レッスン12 トレードの前提条件を見直すには
 レッスン13 トレード上の意思決定を妨げる不快ストレスの原因とは
 レッスン14 心の日誌をつける
 レッスン15 焦り―金儲けに躍起になっているとき
 レッスン16 いつでもやめる心づもりを
 レッスン17 恐怖に襲われたらどうすべきか
 レッスン18 成績に対する不安―最も多いトレード上の問題
 レッスン19 不向きな人
 レッスン20 相場のボラティリティと感情のむら
 参考

第3章 心の幸福―トレード体験を強化する

 レッスン21 快感を覚えることが大切
 レッスン22 自分の幸せを築く
 レッスン23 ゾーンに達する
 レッスン24 精力的にトレードする
 レッスン25 意図性と偉大性―遊びを通して脳を鍛える
 レッスン26 平穏な心を養う
 レッスン27 レジリエンスを養う
 レッスン28 一貫性と正しい行動
 レッスン29 自信を最大限に深め、自分のトレードを続ける
 レッスン30 コーピング―ストレスを幸福に変える
 参考

第4章 自己改善策―コーチングのプロセス

 レッスン31 トレード日誌をつけてセルフモニタリングをする
 レッスン32 自分のパターンを認識する
 レッスン33 パターンに関するコストと利益を測定する
 レッスン34 効果的な目標を設定する
 レッスン35 最良の状態を足掛かりにする―ソリューションフォーカスを維持する
 レッスン36 過去の問題パターンを断ち切る
 レッスン37 規則に従って一貫性を保つ
 レッスン38 逆戻りと繰り返し
 レッスン39 自己改革に向けて安全な環境を作る
 レッスン40 イメージ作業を利用して改革のプロセスを促進する
 参考

第5章 昔のパターンを断ち切る
    ―セルフコーチングのための精神力動的な枠組み

 レッスン41 精神力動―過去の関係の重さから逃れる
 レッスン42 繰り返しのパターンを明確にする
 レッスン43 自分の防衛の働きに立ち向かう
 レッスン44 敵に打ち勝つ―自分の問題と距離を置く
 レッスン45 セルフコーチとの関係を最大限に活用する
 レッスン46 良いトレード仲間を見つける
 レッスン47 不快感に耐える
 レッスン48 感情の転移を習得する
 レッスン49 矛盾の力
 レッスン50 ワークスルー
 参考

第6章 心の地図を描き直す
    ―セルフコーチングへの認知的アプローチ

 レッスン51 心のスキーマ
 レッスン52 感情から自分の考えを理解する
 レッスン53 自分の最悪のトレードから学ぶ
 レッスン54 日誌を利用して自分の思考を見直す
 レッスン55 否定的思考のパターンを打ち破る
 レッスン56 否定的思考のパターンの枠組みを変える
 レッスン57 集中的なイメージ作業で思考パターンを変える
 レッスン58 認知日誌で否定的思考のパターンに立ち向かう
 レッスン59 認知実験で自分を変える
 レッスン60 肯定的な思考を身につける
 参考

第7章 新たな行動パターンを学習する
    ―セルフコーチングへの行動的アプローチ

 レッスン61 自分の関連づけの特徴について理解する
 レッスン62 刺激と反応の微妙な結びつきを確認する
 レッスン63 社会的学習の力を生かす
 レッスン64 自分のトレード行動を形成する
 レッスン65 マーケットの条件づけ
 レッスン66 拮抗する力
 レッスン67 肯定的な関連づけを足掛かりにする
 レッスン68 エクスポージャー法―効果的かつ柔軟な行動療法
 レッスン69 スキルアップにもエクスポージャー法を活用する
 レッスン70 心配事に対処するための行動療法の枠組み
 参考

第8章 ビジネスとしてのトレードのコーチング

 レッスン71 当初資金の重要性
 レッスン72 トレードビジネスの計画を立てる
 レッスン73 トレードビジネスを拡大する
 レッスン74 自分のトレード結果を追跡する
 レッスン75 高度なやり方でトレードビジネスに成績をつける
 レッスン76 自分のリターンの相関関係を追跡する
 レッスン77 自分のリスクとリターンを測定する
 レッスン78 実行力の重要性
 レッスン79 テーマで考える―良いアイデアを生み出す
 レッスン80 トレードをマネジメント
 参考

第9章 プロのトレーダーから学ぶ
    ―セルフコーチングに関する見解と参考資料

 レッスン81 コアコンピタンスを強化して創造力を養う
 レッスン82 責任を取るのは自分だけ
 レッスン83 自己認識を深める
 レッスン84 成功を目指して自分のメンターになる
 レッスン85 詳細な記録をつける
 レッスン86 ミスは免れないということを学ぶ
 レッスン87 リサーチの力
 レッスン88 姿勢と目標が成功のカギ
 レッスン89 投資会社の視点
 レッスン90 データを利用して成績を上げる
 参考

第10章 エッジを探して
     ―マーケットで過去のパターンを見つける

 レッスン91 過去のパターンを使ってトレードする
 レッスン92 正しいデータを使って優れた仮説を組み立てる
 レッスン93 エクセルの基本
 レッスン94 自分のデータをチャートにする
 レッスン95 自分の独立変数と従属変数を作る
 レッスン96 自分のヒストリカルデータを研究する
 レッスン97 データにコードを付ける
 レッスン98 文脈を調べる
 レッスン99 データの検索条件を絞り込む
 レッスン100 自分の研究成果を活用する
 参考

最後に

 レッスン101 自分の道を見つける
 セルフコーチングに関する詳細情報

訳者あとがき

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■まえがき

 本書の狙いは、金融マーケットでの成功を目指す皆さんが自分自身の良き指導者になれるよう、コーチングについてできるだけ指導することである。本書の原題『The Daily Trading Coach』では「毎日の(Daily)」がキーワード。そこで、皆さんが長所を伸ばし、短所を克服するために毎日使える参考資料になるよう工夫した。

 これまでにも『トレーダーの精神分析――自分を理解し、自分だけのエッジを見つけた者だけが成功できる』(パンローリング)と『精神科医が見た投資心理学』(晃洋書房)を執筆し、ブログ「トレーダーフィード(TraderFeed)」(http://www.traderfeed.blogspot.com/)を一八〇〇回以上も更新しており、トレード心理についてはずいぶんと取り上げてきた。そこで、前著『トレーダーの精神分析』の上梓から二年がたった今、もう一度電子媒体から紙媒体の執筆へと舵を切り、コーチングの「プロセス」を中心にトレード心理三部作を完結させようと考えたのである。

 本書を執筆するきっかけとなったのは二つの現実だ。ひとつは、「トレーダーフィード」へのアクセスパターンを調べた結果、多くの読者(全読者の約三分の一)が取引時間中かマーケットが開く直前にアクセスしているのが分かったこと。大半の記事は個別のトレードに関する助言ではなく、どちらかというと心理学やトレードのパフォーマンスといったトピック、日中の任意の時間帯に関係のあるトピックが多いことを考えると、これは興味深い結果であった。  信頼している読者グループにこのパターンについて尋ねてみたところ、トレードコーチの代用としてブログを読んでいるのだという答えが返ってきた。ブログをチェックするのは、金融マーケットという戦場に挑む前に自分のプランや心づもりを思い出し、自分に言い聞かせるためだったのだ。それが確認できたのは、ブログで最も人気があった(コメントが多かった)記事の統計値を集計したときである。大半がトレード心理を扱った実用的な内容だったが、最も多かったのは、読者の想定を問題視しているものの気持ちを高揚させるような内容だった。コーチングを求めるトレーダーがブログのなかに何らかの方策を見いだしているのだろう。

 本書の執筆を決めたもうひとつの現実は、電子出版と出版界を吹き荒れる激変の嵐と関係がある。これまでのところ、トレーダー向けに書かれた電子ブックは比較的少ない。仮に電子ブックがあっても、印刷物をただ画面上で読むのとさして変わらない。電子出版は魅力的だし便利だが、わたしがコンサルタントを務めているトレーダーが実際に電子ブックを買い求め、利用しているというケースはほとんどない。一日中トレードしたあとでわざわざ情報を読むのに時間を費やすのは嫌だ、というのがトレーダーたちにほぼ共通するぼやきである。わたしはすぐに金融マーケットの参加者が印刷物を読むようには電子媒体を利用していないことに気がついた。それで違った形の著作、つまり最先端の電子出版に向いているが、印刷物としても十分に読める著作の執筆を思い立ったというわけだ。

 この二つの結果を重ね合わせてみると、印刷版でも画面上でも読みやすい「トレードコーチの本」という構想をよく理解してもらえるだろう。

 本書の狙い、それはトレーダーが自分のトレードのセルフコーチになるのを支援する実用的な「レッスン」を考案し、ブログと書籍の内容を統合することである。本書には一〇一のレッスンを収録したが、どれも同じ書式で、数ページ程度にまとめてある。トレーダーが直面する日々の難題、その難題に立ち向かうためのアプローチ、そしてそのアプローチを実行に移すための具体案を記した。各章はそれぞれ独立しているため、最初から順番に読んでも構わないし、そのときのトレードに最適なレッスンを目次から探して読んでも構わない。従来の書籍とは異なり、本書はじっと座って最初から最後までを通読するものではなく、トレーダーとしての自己の成長を導きながら、一度にひとつのレッスンを選んで読めばよい。ブログは絶好調のときの対処法を思い出してもらう画面上のリマインダーだが、本書のレッスンは、そのブログと同様、またブログ以上に、皆さん自身に内在する最大の能力を引き出して発揮してもらうためのロードマップ(実用的な識見やツール)なのである。

 わたしはこの一〇一のレッスンを、高額なセミナーや格安なコーチングセッションよりも有意義な情報に、また実用的な手法にしたいと熱望してきた。セミナーの講師やコーチは皆さんをリピーターに仕立てることを目標にしていることが多いが、本書の目標はまさにその逆で、皆さん自身がプロのトレーダーとして、また個人として成長するのを導けるよう、皆さん自身が自分を指導するための手段を提供することである。言い換えると、本書は「心理学教育」のマニュアル、つまり皆さん自身と皆さんのトレードのパフォーマンスを向上させるための手引書なのである。

 わたしが電子出版でとくに気に入っているのは、執筆者がリンクを張って書籍の内容をウエブ上のさまざまな資料と関連づけることができる点だ。本書も成長していけるよう、今後も専用のブログ「ビカム・ユア・オウン・トレーディング・コーチ(Become Your Own Trading Coach)」(http://www.becomeyourowntradingcoach.blogspot.com/)に題材を追加していく予定である。皆さんは電子ブックのリンクをクリックするだけで、「ビカム・ユア・オウン・トレーディング・コーチ」の最新の情報や手法に自由にアクセスすることができる。ブログには本書の各章と同じマスターページがあり、その章の内容と関連するリンクを掲載している。また、本書の各章の最後には「参考」という項目もあり、ほかのリンクや文献も紹介している。いずれ新たなブログに動画のコンテンツも追加する予定だが、これは多種多様なアイデアを見聞きしてしっかり学びたいというトレーダーにとくに役立つはずだ。どのような教科書でも、電子出版ならマルチメディアを使った学習体験が可能になる。

 目次を見てすぐにお気づきだろうが、どの章も一〇のレッスンで構成されている。この一〇章に、精神力学療法、認知療法、行動療法といった短期療法(ブリーフセラピー)の技法を用い、問題ある行動パターンを確信の持てる新たな行動パターンに変えていくための具体的なレッスンを含め、トレード心理学やトレードのパフォーマンスに関するさまざまなトピックを網羅した。また、最後の二章はとくにユニークだ。第9章には、ウエブ上にコメントや成果を発表している一八人の成功したプロのトレーダーのセルフコーチング論を収録した。第10章は「トレーダーフィード」の読者とのかねてからの約束を果たしたもので、エクセルを使って過去のパターンを調べるという基本をひとつずつ検証している。アイデアを応用するのに役立つよう、各レッスンには課題とヒント(「コーチングのヒント」)を加えた。また、さっと見直したり目を通したりしやすいよう、レッスン中の重要なアイデアは強調表示し、本書のトピックやアイデアについて詳細に調べるのに役立つよう、各章の最後には「参考」という項目も加えた。

 そう、本書の目標は、皆さんが自分のトレードのセルフコーチになるのを支援することだが、人生のセルフコーチになるのを支援するという、さらに大きな目標があることも、各章やレッスンのタイトルを一目見ればお分かりだろう。トレードする際に、つまりリスクと向き合いながらリターンを追求する際に直面する難題や不確実性は、ほかの職場でも対人関係でも同じように直面するものである。トレーダーとして自己に打ち勝つのに役立つ手法は、どの分野で努力するときにも十分に役立つものである。その意味で、目標は単にトレードで儲けることだけでなく、人生のあらゆる挑戦にも打ち勝つことである。金融マーケットであれ他分野であれ、本書が成功を目指す皆さんの貴重な財産になれば幸いであり、光栄である。

ブレット・スティーンバーガー



■はじめに

 自分の理想を表現できる役者などほとんどいない。われわれには長所もあるし才能もある。夢も野心もある。しかし、長い間見ていても、そうした理想が具体的に表現されている例は少ない。数日が数カ月になり、数年になり、ようやく(残念ながら決定的になった時点で)人生を振り返り、今まで何をやってきたのかと頭をひねるのが普通である。

 皆さんもそうだろう。「どうして闘う人間になれなかったんだろう。もしかしたら違う人生を生きていたかもしれないし、自分の理想を表現する役者になって、その実現を謳歌していたかもしれない」と、中高年者は過去を振り返る。

 トレード指南書の書き出しとしては妙だと思っている方、そのとおりである。需要と供給とかトレードのパターン、資産運用の話から始めるつもりはない。まずは皆さん自身のこと、そして皆さんが人生から何を得たいかという話から始めたい。この流れで言うと、トレードというのは金融商品の売買やヘッジ以上のもの、つまり自己に打ち勝ち、成長するための手段なのである。

 自称であれ公称であれ、トレーダーはだれしも企業家である。自らトレードを始め、マーケットで競い合う。資本を維持しつつも、機会を見つけてはそれを追求する。また、自分の腕を磨き、規模を拡大し、計算済みのリスクを取る。企業家として、まずは自分がマーケットに価値をもたらすのだという前提でトレードを始めるわけだが、避けて通れない失望や挫折、長い月日、限られた資源、リスクや不確実性を目の当たりにすると、そんな楽観論を維持するのは難しいかもしれない。自分のビジョンなど棚上げし、理想を演じるための日々の努力など忘れてしまったほうがはるかに楽である。

 しかし、野心を棚上げできないトレーダーもいる。虫けらのように、たとえ焼け跡であろうと、遠くの明かりを探し求めている。わたしはそういう立派なトレーダーに本書をささげたい。

 わたしはヘッジファンドやプロップファーム(訳注 自己売買取引の専門業者)、投資銀行のトレーダーやマネーマネジャーを相手に仕事をしているが、何もトレードの指南をしているわけではない。大半がわたし自身のトレード戦略とは異なる戦略を用いているし、マーケットに関する知識もわたしよりもはるかに上。そうではなく、わたしは彼らの長所を見いだしてやるのである。彼らは何が得意で、どうやってその域に達したのかを知ったうえで、そうした長所からキャリアアップするのを支援するのである。魚は生を受けたときから水中にいるため、水というものを理解することができないが、それと同じで、われわれは一般に自分自身の資産を正しく認識していない。われわれは技能や才能、長所、葛藤、短所が妙に入り混じった生き物である。しかし、創業間もない企業が創業者の長所に頼らざるを得ないのと同様、トレーダーとしてのキャリアはその資産、すなわち金融資産と個人的資質に大きく依存する。つまり、コーチであるわたしの役割は、トレーダーを心理学という海から引き揚げて、周囲にあるもの――生涯にわたって配当を生み出してくれる資産――を見極めるのをお手伝いすることなのだ。

 トレーダーにとってセルフコーチングがこれほど重要な時代はない。本書でも述べるが、マーケットは第二次世界大戦後の時代にはなかった水準のボラティリティに直面している。価格のボラティリティには潜在的なチャンスがあるが、リスクもある。一歩引いて事態の推移を認めることができず、結局は調整してわざわざ多額の資本を失ってしまうトレーダーがいる一方、危機に乗じてトレードという海から這い上がり、リスクを限定して新たなチャンスを見いだすトレーダーもいる。そういうトレーダーは、生涯にわたって配当を得る体勢を整えているのである。

 本書は、そのトレードという旅の道連れになるよう、一〇一のレッスンで構成してある。各レッスンでは課題を示し、その課題に向かって行動を起こすための具体的な練習問題を提案した。レッスンは、一日のトレードを始める前のメディテーション、すなわち皆さんに内在する最大の能力を引き出すのを助けるコーチングというコミュニケーションになる。これらのレッスンを読んで実践していけば、コーチングというコミュニケーションがやがて自分自身に語り掛けるセルフトークになっていく。まずは本書で言う理想を演じることから始め、最後にはその理想を生きられるよう、それを自分の生活の一部にしてみるとよい。そうすれば自らが自分のトレードの心理学者になれるのである。

 短いくだりを毎日読んで正しいアイデアを前脳に植えつければ、自分の人生やトレードの目標に優先順位をつけられるようになるし、もしそれが週に一度でもそこそこのトレードをする助けになり、ともすれば失敗に終わっていたトレードも成功に変えることができれば、個人的にも経済的にもどれほどの利益になるかを考えてみるとよい。だが、薬を容器に入れておくだけでは効かないのと同じように、本を閉じたままでは何も学べない。自分のトレード心理を分析するための第一歩は、自己指導のための時間を毎日、毎週、作ることだ。なぜなら、それが行動パターンを習慣パターンに変える方法だからである。優れた個人とは、単に自己啓発を習慣にしている人間なのである。

 さまざまな理想がある。そうした理想が部屋の本棚の向こうから皆さんを見詰めている。皆さんはその理想を全部、生きている間にかなえたいと思っている。皆さんは物欲しそうに本棚を眺めているが、座り心地の良い椅子から手を伸ばしても届かない。でも、手には一冊の本がある。おそらく椅子に座ってその本を読んでいるうちに座り心地が悪くなってくるかもしれない。そうしたら本棚を少し近づけてみよう。

 まずはその本のページをめくってみよう。
 次のステップがわれわれの第一歩である。



■レッスン101 自分の道を見つける

 二〇〇八年にわが母コンスタンス・スティーンバーガーが他界した。母は画家で、美術の教師でもあった。ただ、母の最大の芸術作品は家族である。子供たちに、そして夫に、掛け替えのない心理的な力を与えてくれた――知識と、その知識は特別なものなのだという感覚である。自分が非凡だと分かれば何でもできるというのは驚きだ。そういう認識を持つと、自分の仕事、自分の人間関係、あるいは自分の投資リターンが人並みのものでは我慢できないだろう。自分の家族で芸術作品を創作するとすれば、人に力を与えてその人の人生という芸術作品を創作させようとするはずだ。そんな作品ができたら、どれほど大きな達成感が得られることだろう。もし自分が心理学の専門家として、また父親として、母が自分の家族を使って成し遂げたことの一部でもいいから成し遂げられるなら、わたしは自分の名に恥じないように優れたトレードをするだろう。

 それにしても、自分のトレードのセルフコーチになるということは、いったいどのような意味を持つのだろう。それがトレードのコーチだろうと、営業、育児、あるいはスポーツのコーチだろうと関係ない。目標は、自分がなれる最高の自分になることで自分の人生という芸術作品を創作することである。

 多くの人々を苦しめる病は、自分のことを偉大だと考えられないことである。自分を偉大だと考えるのは、ナルシシズム――自己の欠如を反映しており、本物の偉大さではない――ではなく、ニューエージの自尊心だと弁解することでもない。そうではなく、違いを生み出すような人生の進路を描くことである。それは目標志向の人生を生きることであり、その日暮らしをすることではない。人生に価値や意味を持たせるための価値観や目的にもそれは当てはまる。だれかが、どこかで自分への献辞で著作を締めくくりたいと思わせるようなインパクトを生み出すことなのである。

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自分の人生は未完の芸術作品である。
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 昔から言われていることだが、われわれは自分の両親に似ている相手と結婚する傾向がある。幼いころにそのような話を聞いたらゾッとしていただろう。だが、母親が家族に及ぼした影響や妻のマージーが家族に及ぼした影響を振り返ってみると、わたしには確かにその法則が当てはまっているのが分かる。マージーの一番の才能は、自分は特別なのだと、他人にも感じてもらっているという確信を抱いているところだろう。わが子が結婚生活で困難にぶつかっても、わたしはまったく心配したことがない。彼女ならきっと乗り越えて幸せになってくれると思っている。なぜなら、彼女ならではの特別なものを、母親を通して体験していたからだ。もし自分は非凡であるという深い確信を抱いていれば、最終的には自分が持っている最大の能力を引き出せるはずだ。

 もしセルフコーチとしての成功を目指しているなら、わたしの母や妻のようになる必要があるだろう。つまり、たとえ圧倒されるような切迫した障害にぶつかろうとも、自分自身との関係、常に特別である自分自身との関係を維持する必要があるということだ。少なくとも自分の失敗と同じぐらい自分の成功にもできるだけ焦点を合わせる必要があるだろう。特定の目標を立て、その目標を達成できるような具体的な活動を組み立てていく必要があるだろう。そうすれば、毎日が意欲や能力のアファメーション(訳注 「アファメーション」とは、肯定的な言葉を繰り返し自分自身の潜在意識に語り掛けることで、否定的な考えや固定観念に支配されている自分の気持ちを否定的なものから肯定的なものに変えていく心理学的手法)になる。セルフコーチングとは、日誌をつけたり自分の損益を追跡したりすることではない。家族に力を与える母親のような自分自身との関係を構築することなのだ。

 これを読んだら、トレードは自分の人生の進路ではないと考えるようになるかもしれない。そうしたら、その考えを受け入れ、本来の自分が魅力を感じ、自分が一番うまくできる仕事を見つける勇気を持つことだ。わたしはトレード――知的な挑戦、進歩するための無数の機会、そして即時のフィードバック――が大好きだ。いつ順調なのかも分かるし、いつ不調なのかも分かる。トレードで利益を出していても、実はトレードが自分の一番得意な仕事とは言えない。かつて専業のトレーダーになろうとしたことがあったが、すぐに心理学――他人と一緒に仕事をすること――から離れた生活にぽっかりと大きな穴が開いているのを感じた。だから、今ではトレードを副業にし、プロのトレーダーのコーチとして仕事をしているわけだ。そして自分の最大の関心事や才能を最もやりがいのある状況に当てはめ、皆さんが自分に内在する特別なものを見つけるお手伝いができるように、本を執筆しているのである。

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自分の強みが人生の進路を決めてくれる。
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 自分の一番得意なことは何かを知ることだ。自分の強みを強化しよう。自分への働き掛けを絶対にやめないこと。向上心を失わないこと。ときには計画をひっくり返し、まったく新しい課題に取り組んでみよう。偉大さの敵は悪ではなく、平凡である。平凡に甘んじてはならない。画家や美術の教師になって、自分の人生から芸術作品を創作する必要はないが、もしトレードが自分の進む道なら、先人たちが残してくれたものから学ぶことである。皆さんへの最後の課題は、本書の各章でご紹介したリソースを理解し、吸収し、自分のものにしたら、セルフコーチングの一番の支えになりそうなものを選ぶことである。きっと皆さんの人生の作品を描く絵の具と筆になってくれるだろう。



■訳者あとがき

 成功している著名なトレーダーが自らの体験を踏まえて相場の心理やトレーダーとしての心構えについて著した本は見かけるが、本書の大きな特徴は、医科大学で教鞭を執り、実際にトレーダーのメンタル面の指導に当たる臨床心理学の専門家が自らのトレード体験も踏まえて執筆しているという点だろう。要するに、本書はトレーダーが自分の心と対話をしながら心をコントロールし、自己改革を進めてトレードで成功するための――最終的には人生で成功するための――心理学のマニュアルである。けっしてトレード指南書ではない。

 本書で紹介されているセルフコーチングの手法はトレーダー以外の人にも十分に役に立つ。心理カウンセラーでもないのにこれらをすべて実践するのはなかなか難しいのではないかとも思えるが、ルールを決めてそれに従う、記録をつける、自分や他人のミスから学ぶ、心を落ち着かせる、運動をする、仕事と私生活のバランスを取る、シミュレーションの大切さなど、どれも自己改革を進めるうえでは基本的なことばかりである。にもかかわらず、自己改革が成功しないのは、著者も述べているとおり、どれも長続きしないからである。まずは焦らずに自分でできることから始めてみるとよいのだろう。とにかく長続きさせることである。

 しかし、コーチングのスキルを身につけて長続きさせればトレードで大成功するかというと、そうとも限らない。大きな損失やミスは、心の問題というよりも、知識や経験の不足、単なる準備不足、資金不足などが原因の場合もある。また、成功している人は間違いなく向上心があり、勉強熱心であるということも忘れてはならない。

 本書では、自己改革の進め方を芝居の例えを多用して説明している。つまり、自分が理想とする人物やトレーダーをロールモデルにしてその役を演じること、その人のまねをしたり演じたりする練習を繰り返すことで最終的にその役に「なり切る」のである。最初はうまくできなくても心配ない。リハーサルを繰り返せばいいのである。心のなかで演技をしている自分をつぶさにイメージし、シミュレーションをするわけだ。そのときに重要なのは、過去の思い出したくない出来事や記憶にもしっかりと向き合い、けっして逃げてはならないことだろう。

 著者は「まえがき」で、どのレッスンから読んでも構わないと述べているが、それにはやや異論を唱えたい。心理療法の技法や用語の説明などは、やはり順を追って説明されているので、せめて「章」ごとに読んだほうが分かりやすいだろう。

 なお、本書に出てくる心理療法の技法や用語、表現については、友人でもあり、東京国際大学・言語コミュニケーション学部で非常勤講師を務める森朋子氏にいろいろとご教示いただいた。この場をお借りして心から感謝したい。主な用語はカギカッコでくくってあるので、興味のある方はさらに調べてみるとよい。『臨床心理学キーワード』(有斐閣双書)なども参考になるだろう。また、長期にわたる本書の訳出作業に当たっては、パンローリングの皆様をはじめ、FGIの阿部達郎氏に大変お世話になった。深くお礼を申し上げたいと思う。

 二〇一〇年七月

塩野 未佳

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