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マーケットのテクニカル分析

マーケットのテクニカル分析
トレード手法と売買指標の完全総合ガイド

著 者 ジョン・J・マーフィー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 田村英基 マーケットのテクニカル分析  練習帳

2017年11月発売
定価 本体5,800円+税
A5判 638頁
ISBN978-4-7759-7226-7 C2033

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目次正誤表

この1冊でテクニカル分析のすべてをマスターできる!

紹介されました

聞いてわかる投資本要約チャンネル・タザキ様の『お金の名著200冊を読破してわかった!投資の正解』の「モメンタム投資におすすめの8冊」に本書が掲載されました。(2022年7月)
Amazon「証券・金融市場」売れ筋ランキングで1位になりました。(2017年11月17日)

世界的権威が著したテクニカル分析の決定版!
テクニカル分析の教科書――『投資苑』を超える圧倒的実例
<目で見てよくわかる<チャート400以上掲載> 1980年代後半に世に出された『テクニカル・アナリシス・オブ・ザ・フューチャーズ・マーケット(Technical Analysis of the Futures Markets)』は大反響を呼んだ。そして、先物市場のテクニカル分析の考え方とその応用を記した前著は瞬く間に古典となり、今日ではテクニカル分析の「バイブル」とみなされている。

そのベストセラーの古典的名著の内容を全面改定し、増補・更新したのが本書である。本書は各要点を分かりやすくするために400もの生きたチャートを付け、解説をより明快にしている。

 また、前著の改定増補版である本書は高まる需要に応じて、対象を金融市場全体(株式、金利、株価指数、FX)にまで広げ、この記念碑的著作の完全なる全面改訂を行った。前著で好評だった内容の明晰性・簡潔性・論理性を保持しながら、本書は新しく登場したチャート手法やチャート作成技法、また変化の早い分野での最近の成果を盛り込んでいる。各章で内容を一新し、多くのチャートを更新し、以下のような内容を新たに追加した。 初心者から上級者までのあらゆるレベルのトレーダーにとって有益な本書のテクニカル分析の解説を読むことで、チャートの基本的な初級から上級までの応用から最新のコンピューター技術と分析システムの最前線までを一気に知ることができるだろう。

著者紹介

ジョン・J・マーフィー(John J. Murphy)
テクニカル分析に30年以上従事。元メリルリンチテクニカル分析部門責任者。オンラインの投資家向け分析サービス提供会社マーフィーモリスの創立者兼社長。米CNBCテレビのテクニカルアナリストを7年間務める。本書のほかに、本書のスタディガイド『
マーケットのテクニカル分析 練習帳』、『市場間分析入門』(パンローリング)、『ビジュアル・インベスター』『トレーディング・ウィズ・インターマーケット・アナリシス』『チャーティング・メイド・イージー』『プリング・トゥゲザー』などがある。

本書への賛辞

「テクニカル分析を始めるのに最良の方法は優れた教科書である本書を読むことである」――ラルフ・J・アカンポーラ(プルデンシャル証券マネジングディレクター)

「今の時代でジョン・J・マーフィーほどテクニカル分析に精通した人物はいない。彼は自身の著書を通して多くの人に門戸を開いたし、テクニカル分析を使う者すべての水準を高めた。彼の著書は、証券業に携わるすべての人に読まれるべきものであり、私はいつもすぐ手に取れる場所に置いている」――ゲイル・M・デューデック(ウォーバーグ・ディロン・リード投資銀行チーフ投資ストラテジスト)

「改訂完全版の本書で、ジョン・J・マーフィーは前著と同じことをしたと読者は思うかもしれない。しかし、それが違う。本書ではすべてが現代に即してアレンジされている。前著の『金融市場のテクニカル分析』は初心者やプロにかかわらず必ず読まれるべきものだったし、公認テクニカルアナリストの受験生にはより重要であった。ポイント・アンド・フィギュアの愛好者である私は本書のポイント・アンド・フィギュアの章を熱心に読んだ。そこでは一般的な手法を扱っているだけではなく、元来のポイント・アンド・フィギュアの方法論の有用性についても深く探究されている」――アラン・R・ショー(ソロモン・スミス・バーニー証券マネジングディレクター)


目次(本テキストは再校時のものです)

監修者まえがき
著者について
寄稿者について
はじめに
謝辞

第1章 テクニカル分析の哲学
はじめに
哲学と論理的根拠
テクニカル分析とファンダメンタルズ分析
分析とタイミング
テクニカル分析の柔軟性と適応性
テクニカル分析を異なる対象に応用
テクニカル分析を異なる時間枠で応用
経済予測
テクニカルアナリストかチャート分析者か
株式と先物のテクニカル分析を簡単に比較
テクニカル分析に向けられる批判
ランダムウォーク理論
一般原理

第2章 ダウ理論
はじめに
基本理念
終値の使用とラインの存在
ダウ理論に対するいくつかの批判
経済指標としての株式
ダウ理論を先物に応用
おわりに

第3章 チャートの仕組み
はじめに
利用できる各種チャート
ローソク足チャート
算術目盛りと対数目盛り
日足のバーチャートの作り方
出来高
先物取引の取組高
週足と月足のバーチャート
おわりに

第4章 トレンドの基本概念
トレンドの定義
3つのトレンドの方向
3種類のトレンド
支持線と抵抗線
トレンドライン
ファン理論
「3」という数字の重要性
トレンドラインの相対的な傾斜角度
チャネルライン
リトレースメント比率
スピードライン
ギャンラインとフィボナッチファンライン
内部トレンドライン
リバーサルデイ
ギャップ
おわりに

第5章 主要な反転パターン
はじめに
価格パターン
2種類のパターン―反転と継続
ヘッド・アンド・ショルダーズの反転パターン
出来高の重要性
目標値の算出
逆ヘッド・アンド・ショルダーズ
複合型ヘッド・アンド・ショルダーズ
トリプルトップとトリプルボトム
ダブルトップとダブルボトム
理想的パターンのバリエーション
ソーサーとスパイク
おわりに

第6章 継続パターン
はじめに
トライアングルパターン
対称トライアングル
上昇トライアングル
下降トライアングル
拡大型パターン
フラッグとペナント
ウエッジ
レクタングルパターン
メジャードムーブ
継続型ヘッド・アンド・ショルダーズ
確認とダイバージェンス おわりに

第7章 出来高と取組高
はじめに
二次的指標としての出来高と取組高
全市場における出来高の解釈
先物市場における取組高の解釈
出来高と取組高に関するまとめ
ブローオフとセリングクライマックス
COTリポート
コマーシャルズを見よ
トレーダー別ネットポジション
オプションの取組高
プット・コール・レシオ
オプション市場のセンチメントとテクニカル分析を組み合わせる
おわりに

第8章 長期チャート
はじめに
長期的視野を持つことの重要性
先物取引のためのつなぎ足チャートの作り方
パーペチュアルコントラクト
長期トレンドはランダム性に異議を唱える
チャートパターン―週反転・月反転
短期チャートと長期チャート
なぜ長期チャートはインフレ調整しなければならないのか
長期チャートはトレード用ではない
長期チャートの例

第9章 移動平均
はじめに
移動平均―時間の差を平滑化する手法
移動平均エンベロープ
ボリンジャーバンド
目標値としてのボリンジャーバンド
バンドの幅はボラティリティを示す
移動平均は相場サイクルに結び付いている
移動平均として用いられるフィボナッチ数列
移動平均を長期チャートに適用する
ウイークリールール
最適化すべきか否か
まとめ
適応移動平均
移動平均に代わるもの

第10章 オシレーターとコントラリーオピニオン
はじめに
オシレーターをトレンドと連携させる方法
モメンタムの測定
ROCの測定
2本の移動平均を用いるオシレーター
コモディティチャネルインデックス
RSI
70と30のラインをシグナルとして利用する
ストキャスティックス
ラリー・ウィリアムズの%R
トレンドの重要性
オシレーターが最も有効に機能するとき
MACD
MACDヒストグラム
週足と日足を組み合わせる
先物取引におけるコントラリーオピニオンの原理
投資家センチメント指数
インベスターズ・インテリジェンス指数

第11章 ポイント・アンド・フィギュア
はじめに
ポイント・アンド・フィギュアとバーチャート
日中のポイント・アンド・フィギュア・チャートの作り方
水平カウント
価格パターン
3枠反転ポイント・アンド・フィギュア・チャート
3枠反転チャートの作成方法
トレンドラインの引き方
目標値の算出法
トレード戦術
ポイント・アンド・フィギュア・チャートの優位性
ポイント・アンド・フィギュアのテクニカル指標
ポイント・アンド・フィギュア・チャートのコンピューター化
ポイント・アンド・フィギュアの移動平均
おわりに

第12章 ローソク足 グレッグ・L・モリス
はじめに
ローソク足の作り方
基本のローソク足
ローソク足パターンの分析
ローソク足パターンにフィルターをかける
結論

第13章 エリオット波動理論
歴史的背景
エリオット波動原理の基本的着想
エリオット波動とダウ理論の関連性
修正波
交代の原則
チャネル化
波動4と支持線領域
波動原理の基礎としてのフィボナッチ数列
フィボナッチ比率とリトレースメント
フィボナッチ目標時間
波動理論の3つの面を組み合わせる
エリオット波動の応用――株式市場とコモディティ市場
要約と結論
参考文献

第14章 サイクル
はじめに
サイクル
サイクルの考え方がチャート分析手法をいかに助けるか
支配的サイクル
サイクルの長さを組み合わせる
トレンドの重要性
左右変換
サイクルを分離する方法
季節性サイクル
株式市場のサイクル
1月のバロメーター大統領選挙サイクル
ほかのテクニカルツールとの併用
最大エントロピースペクトラル分析
サイクルに関する文献とソフトウェア

第15章 コンピューターとトレードシステム
はじめに
必要なコンピューター
ツールと指標の分類
ツールと指標の使用
ウエルズ・ワイルダーのパラボリックシステムとディレクショナルムーブメントシステム
システムトレードの利点と欠点
専門家の助言が必要なら
システムの検証・自作など
おわりに

第16章 マネーマネジメントとトレード戦術
はじめに
成功するトレードの3要素
マネーマネジメント
リスク・リワード・レシオ
ポジションの多元化――トレンディングとトレーディング
勝ちが続いたり、負けが続いたあとに何をすべきか
トレード戦術
テクニカル要因とマネーマネジメントを組み合わせる
注文の種類
日足チャートから日中足チャートへ
日中ピボットポイントの利用
マネーマネジメントの要約とトレードのガイドライン
株式への応用
アセットアロケーション
投資一任勘定と投資信託
マーケットプロファイル

第17章 株式と先物の関連性―市場間分析
市場間分析
プログラム売買――究極的な関連性
債券と株式の関連性
債券とコモディティの関連性
コモディティとドルの関連性
株式のセクターと業種
ドルと大型株
市場間分析と投資信託
レラティブストレングス分析
レラティブストレングスとセクター
レラティブストレングスと個別株
市場のトップダウンアプローチ
デフレシナリオ
市場間の相関
市場間ニューラルネットワークソフトウェア
おわりに

第18章 株式市場の指標
マーケットブレドゥスを測る
サンプルデータ
市場平均の比較
騰落ライン
騰落ラインとのダイバージェンス
日足の騰落ラインと週足の騰落ライン
騰落ラインのバリエーション
マクレランオシレーター
マクレラン総和指数
新高値銘柄数と新安値銘柄数
新高値・新安値指数
値上がり銘柄の出来高と値下がり銘柄の出来高
アームズインデックス
TRINとTICKの対比
アームズインデックスの平滑化
オープンアームズ
エクイボリュームチャート
キャンドルパワー
市場平均の比較
おわりに

第19章 要点整理―チェックリスト
テクニカル分析のチェックリスト
テクニカル分析とファンダメンタルズ分析の調整
公認テクニカルアナリスト
マーケット・テクニシャン・アソシエーション
世界に広がるテクニカル分析
テクニカル分析の別称
FRBの最終的な承認
おわりに

付録A 上級テクニカル指標 トーマス・E・アスプレイ
DI
HPI
STARCバンドとケルトナーチャネル
DIの計算式

付録B マーケットプロファイル デニス・C・ハイネス
はじめに
マーケットプロファイルグラフ
マーケットストラクチャー
マーケットプロファイルの組成原理
値幅展開とプロファイルパターン
長期の市場活動を追いかける
おわりに

付録C トレードシステム構築の要点 フレッド・G・シュッツマン
5段階プラン
ステップ1――まずアイデアを練る
ステップ2――アイデアをもとに客観的なルールを作る
ステップ3――チャート上で視覚的にチェックする
ステップ4――コンピューターを用いて正式な検証を行う
ステップ5――結果を評価する
マネーマネジメント
おわりに

付録D つなぎ足 グレッグ・モリス
期近限月足(ニアレストコントラクト)
2番限足(ネクストコントラクト)
ギャンコントラクト
つなぎ足
期間固定つなぎ足

用語集
参考文献
資料・ソース



はじめに

 1986年に本書のオリジナル版にあたる『テクニカル・アナリシス・オブ・ザ・フューチャーズ・マーケット(Technical Analysis of the Futures Markets)』を出版したとき、業界でここまでの反響を呼ぶとは夢にも思わなかった。同書はテクニカル分析にかかわる多くの人々に「バイブル」と呼んでいただいた。米市場テクニカルアナリスト協会では、公認テクニカルアナリスト試験での重要参考書となっている。また、FRB(米連邦準備制度理事会)には、テクニカル手法の価値を調査した報告書で引用された。さらには、8カ国で翻訳されている。また私は、同書がロングセラーになると想像していなかった。出版されてから10年以上がたつ。しかし、初版から数年目と同じようなペースで部数が今も売れ続けているのだ。

 とはいえ、この10年でテクニカル分析の分野にも明らかに多くの手法が追加された。私自身が追加した手法もある。1991年に著した第二作の『市場間分析入門』(パンローリング)で紹介した手法は、現在広く活用されており、テクニカル分析の新たな研究分野を切り開く一助になったのではないかと思う。日本のローソク足のような古典的技法やマーケットプロファイルのような新しい手法も、テクニカル分析の分野に入ってきた。今回、新版を著すにあたって、テクニカル分析の全体像を改めて提示し直すものにしなければならないのは明らかだった。私の仕事も変化してきたのだ。

 オリジナル版を著した10年前には、私の関心は主に先物市場にあった。だが、近年は株式市場を扱う仕事が増えている。もっとも、30年前に私が業界に足を踏み入れたときは「株式アナリスト」としてであったので、完全に元の位置に舞い戻ったことになる。これは7年間、米CNBCテレビでテクニカル分析を担当したことが間接的に影響している。この番組は主に一般の個人投資家を対象としていた。それが第3作目となる『ザ・ビジュアル・インベスター』にもつながっている。同書の目的は、業種分析や1990年代に非常に人気があった投資信託分析に、テクニカル分析を適用することにあった。

 10年前に紹介したテクニカル指標は、主に先物市場で使われていたものである。だが、多くは株式市場でも利用されるようになってきた。そう、今こそ、その手法を株式市場で示すときが来たのだ。率直に言うと、いろいろな領域や分野にも進化があるように、書き手も進化していくものである。また、10年前は重要と思われたものも、今日ではさほど重要でないことがある。私の仕事が進化して、テクニカル分析の原理をすべての金融市場に応用できたというのなら、初期の著作にもその進化を反映させるべきであるというのが正しいことのように思える。本書は、オリジナル版の構造をできるだけ維持することにした。したがって、ほとんどの章立てはオリジナル版と同じである。しかし、内容を改訂し、図表も更新した。テクニカル分析の原理は普遍的であるため、対象をすべての金融市場に広げるのは難しくない。とはいえ、もともとオリジナル版は先物市場に焦点を向けたものなので、本書では株式市場に関する内容を多く加筆している。

 また、新たに3つの章を加えた。まず、オリジナル版のポイント・アンド・フィギュアに関する2章(第11章と第12章)を1つにまとめ、新しくローソク足についての章(第12章)を追加した。そして、新たな2章を本書の後ろに追加した。第17章は私が開発した市場間分析の序論である。第18章では株式市場の指標を取り上げた。さらに、付録を一新した。付録Bでマーケットプロファイルを紹介している。より上級のテクニカル指標とテクニカル売買システムの構築法について解説も加えた。用語集も追加した。

 本書の執筆には、いくぶん不安をもって臨んだ。「古典」とみなされているオリジナル版を改訂することが良い考えであるかどうか自信が持てなかったからだ。しかし、本書がより良いものになるよう最善を尽くしたつもりである。より熟練し成熟した書き手・アナリストの視点から本書に取り組んだ。また、本書を通して私が常に心に抱いている「テクニカル分析の原理とそれを実践する多くの才能豊かなアナリストたちへの敬意」を示そうと努めた。この分野への彼らの献身な取り組みと成功こそが、私にとって常に癒しとなり、発想のもととなったからだ。本書がテクニカル分析の原理とテクニカルアナリストの真価を認めるものになることを望んでやまない。

ジョン・マーフィー

監修者まえがき

 本書は代表的なテクニカルアナリストであるジョン・J・マーフィーが著した“Technical Analysis of the Financial Markets : A Comprehensive Guide to Trading Methods and Applications”の邦訳である。これは30年以上前に出版された『テクニカル・アナリシス・オブ・ザ・フューチャーズ・マーケット(Technical Analysis of the Futures Markets)』に、株式市場の分析を加えて大幅に加筆したもので、古典的なテクニカル分析の集大成と言ってよい。本書にあるとおり、テクニカル分析の起源は江戸時代の堂島米会所の米相場とされている。当時、本間宗久に代表される米商人たちは、そのときどきの市況を理解するために、酒田五法と呼ばれるローソク足のパターン認識を用いていた。一方、米国ではチャールズ・ダウが19世紀末に独自の分析手法を編み出し、その後、さまざまな手法が発展した。こうした東西のテクニカル分析は20世紀後半に統合され、その結果は本書にも反映されている。これらは客観性のある厳密な科学ではなかったが、デフォルメされた形ではあっても、状況把握の手段としてのテクニカル分析は、投資における実用的なヒューリスティクスとして長らく機能してきた。

 だが、現代の知見に照らせば、残念ながらこれらの分析手法では、どれだけもっともらしい理屈をつけても未来の予測はできないことが分かっている。大阪の米商人やシカゴの穀物商がテクニカル分析を役立てることができたのは、あくまで彼らが実需の動きを把握し、相場をある程度動かせる立場にあったからであり、場違い筋が市場の変動要因や背景を理解せずにチャートパターンをいじくり回したところでまったくの時間の無駄である。もっとも、予測力のなさはファンダメンタルズ分析も同様で、したがって「テクニカルかファンダメンタルズか」というアジェンダ設定は実はあまり意味がないのである。

 いずれにせよ、投資において重要なことは予測(フォーキャスト)ではなく、現況の把握(ナウキャスト)である。フォーキャストはだれにとっても難しいが、ナウキャストは努力次第で精度向上が可能である。だからテクニカルでもファンダメンタルズでも、パターンが儲けさせてくれるのではなく、市場や銘柄に関する正しい理解が利益をもたらす、と言われるのである。ゆえに相場書ではパターンそのものの習得よりも、それらを介した市況のさまざまな解釈が肝要になる。そして正しい知識を身につけたあとは、書を捨ててフィールドに出ることになるが、そのときには本に書いてあったことはほとんど忘れて構わない。なぜなら、真に役に立つ投資アイデアは、1枚の紙ナプキンに簡潔に書き留められるぐらい自明なものだからである。本書においても、重要なことは、複雑なことを子細に解説してある箇所にではなく、単純なことをサラリと書いてあるところに多く見つかることだろう。私自身も久しぶりに本書を読んでいくつもの新しい発見があった。

 なお、科学的なテクニカル分析のガイドとしては、デビッド・アロンソン著『テクニカル分析の迷信――行動ファイナンスと統計学を活用した科学的アプローチ』(パンローリング)を強く推奨する。

 最後に、翻訳にあたっては以下の方々にお礼を申し上げたい。田村英基氏は分かりやすい翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。

 2017年10月

長尾慎太郎

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■第19章 要点整理――チェックリスト

 本書で明らかになったようにテクニカル分析は多種多様な手法の組み合わせである。各手法を学ぶことでアナリストの相場知識は増えていく。テクニカル分析は巨大なジグソーパズルを組み立てるようなものだ。各テクニカルツールはそのパズルの1ピースにすぎない。筆者の市場分析法は、できるかぎり多くの手法を組み合わせたものとなっている。各手法はすべての状況で有効に機能するとは限らない。肝心なのは、現在の相場状況を正確に判断して、どのようなツールを利用すべきかを知っておくことだろう。これは知識と経験によってもたらされるものだ。

 このような手法のすべては、ある程度重なり合って相互に補完し合っている。利用者が各手法の相互関係を知り、テクニカル分析を各手法を総合したものとみなすことができたとき、初めてその人はテクニカルアナリストの名にふさわしい人物となることができるのである。以下のチェックリストは利用者が、少なくとも初期の段階で、すべての基本事項に触れられるように作成した。本書を熟読すれば、近い将来、このチェックリストの内容はすべて身についていることだろう。このチェックリストはすべてが網羅されているわけではないが、覚えておくべき重要事項のほとんどが含まれている。分かりきったことをしているだけで素晴らしい市場分析ができることなど、まずあり得ない。テクニカルアナリストはたえず未来の相場動向の手がかりを探し求めている。どちらの方向に相場を張ればよいのかを決定する最終的な手がかりが、ある手法では見つけられても、ほかの手法では見つけることができないようなことがよくある。そのような正しい手がかりに出合うチャンスは、分析者が考慮する要素が多ければ多いほど増えていくものなのである。

 テクニカル分析のチェックリスト

1.市場全体の方向はどちらを向いているか。
2.市場セクターの方向はどちらを向いているか。
3.週足・月足のチャートは何を示しているか。
4.メジャートレンドとインターメディエートトレンドとマイナートレンドはそれぞれ上向きのか、下向きのか、横ばいなのか。
5.重要な支持線や抵抗線はどこにあるのか。
6.重要なトレンドラインやチャネルはどこにあるのか。
7.出来高と取組高は価格の動きと一致しているのか。
8.33%・50%・66%のリトレースメント(押し・戻り)水準はどこにあるのか。
9.ギャップはあるか。もしあるのなら、それはどのタイプのギャップなのか。
10.主要な反転パターンが現れていないか。
11.継続パターンが現れていないか。
12.パターンから算出される目標値はどの辺りなのか。
13.移動平均はどのような経路をたどっているのか。
14.オシレーターは買われ過ぎや売られ過ぎを示していないか。
15.オシレーターにダイバージェンスが現れていないか。
16.コントラリーオピニオンの数が極端な値を示していないか。
17.エリオット波動パターンは何を示しているか。
18.明白な3波動や5波動が現れていないか。
19.フィボナッチ数によるリトレースメントや予測はどうなっているのか。
20.相場サイクルでは天井と底はどの辺りにくるのか。
21.市場は右変換や左変換を示していないか。
22.コンピューターのトレンドはどちらを向いているか(上昇か下降か横ばいか)。
23.ポイント・アンド・フィギュアやローソク足は何を示しているか。

 市場を強気か弱気かを結論付けたあと、以下の項目を自問自答してほしい。

1.これからの数カ月間、トレンドはどのように変化するのだろうか。
2.この市場を買べきなのか売るべきなのか。
3.何ユニットをトレードすべきなのか。
4.相場を間違ったとき、どれだけのリスクを負う準備があるのか。
5.利益目標はどれだけか。
6.どこで仕掛ければよいのか。
7.どの注文タイプを使うのか。
8.どこに損切りのストップ注文を置くのか。

 このチェックリストに従って分析を行ったからといって、正しい結論が導き出されるという保証はない。これは単に正しく自問するための指針として作成されたにすぎない。しかし、正しく自問することは正しい答えを見つけだすための最も確実な方法である。トレードを成功させる鍵は、知識・規律・忍耐である。読者はすでに知識を習得していると想定するならば、残りの規律と忍耐を達成するための最も良い方法は自分で準備し、自分自身で行動計画を立てることである。そして、その最終段階はその計画を実行に移すことである。そうすることで、成功を保証することはできないとしても、市場での勝利の可能性を大いに高めることができるだろう。

 テクニカル分析とファンダメンタルズ分析の調整

 テクニカルアナリストとファンダメンタルズ分析者はしばしば互いに言い争っているが、共通の利益のために協力する方法もある。市場分析は両方の方向からアプローチすることができるのである。テクニカル要因は、既知のファンダメンタルズに先行すると筆者は確信しているが、重要な市場の動きは、その背後にファンダメンタルズ要因がなければならないとも考えている。よって、テクニカルアナリストが市場のファンダメンタルズの状態に目を向けておくことは単純に意味があることなのである。ほかのことはともかく、テクニカルアナリストはチャート上で確認された重要な市場の動きの意味づけをするために、ファンダメンタルズ分析者の同僚にファンダメンタルズ的に何が起こっているかを問い合わせてみるのも有効だろう。さらに、ファンダメンタルズな材料に市場がどう反応するかを、優れたテクニカル指標として用いることもできる。

 一方、ファンダメンタルズ分析者はテクニカルな要因を自己の分析の確認や重要な出来事の警告として利用することができる。ファンダメンタルズ分析者は、現在進行中のトレンドとは逆方向のポジションを保有してしまうことを防ぐフィルターとして、チャートを参考にしたり、コンピューターを用いたトレンドフォロー型システムを採用したりすることができる。チャート上にいつもとは違う動きが現れたときは、ファンダメンタルズ分析者にとっても警告的な意味を持ち、それをきっかけとして、より詳細にファンダメンタルズの状況を再度調査することもできる。筆者は大手ブローカーのテクニカル分析部門で数年間勤務していたが、チャート上に切迫したと思われる動きが現れたときは、それについて話を聞くためにファンダメンタルズ分析の部署によく行ったものだ。そこで得た返答の多くは「そんなことはあり得ない」や「バカなことを言うな」といったようなものだった。そんなふうに答えていたまさにその人物が、その数週間後には突然で「予測もしなかった」市場の動きを説明するためのファンダメンタルズ要因をいろいろ探して回って奮闘している姿を見ることなど、日常茶飯事だった。このようなことについては、さらなる調整と協力を行う余地があるのは明らかであろう。

 公認テクニカルアナリスト

 今日、多くの人々がテクニカル分析を利用し、さまざまな市場のテクニカルな状況について意見を述べている。しかし、彼らは本当にそれを行う資格があるのだろうか。また、語る資格があるかどうかを知るにはどうすればよいのだろうか。いずれにせよ、医学部の卒業証書を持っていない医者のところに行く者はいないだろし、司法試験に合格していない弁護士に相談をしに者もいない。あなたの会計士は疑いなく税理士であろう。もし普通株の評価を知りたくて証券アナリストに意見を求めるのなら、必ず彼が公認証券アナリスト(CFA)であるかどうかを確認するだろう。では、なぜテクニカルアナリストの場合には同じことをしないのだろうか。

 マーケット・テクニシャン・アソシエーション(MTA)は、公認市場テクニカルアナリスト(CMT)プログラムを創設し、このような疑問に答えている。CTMプログラムでは、アナリストにCMTを名乗る資格を授与するに際して、3段階の試験を課している。プロのテクニカルアナリストの大半はこのプログラムを通過している。今後、テクニカル分析について見解を述べる者がいたら、彼がCMT資格を持っているかどうかを尋ねてみてほしい。

 マーケット・テクニシャン・アソシエーション

 マーケット・テクニシャン・アソシエーション(MTA)は世界で最も古くかつ最もよく知られているテクニカルアナリスト協会である。テクニカル分析に関する意見交換の振興や、一般の人々と投資コミュニティの教育、テクニカルアナリストの倫理規程と職業基準の制定といった目的のために、1972年にMTAは創立された(1998年時点でMTAは25周年を迎えた。この出来事は、ニューヨークで開かれる月次会合において、協会創立者の3人――ラルフ・アカンポーラ、ジョン・ブルックス、ジョン・グリーリー――による特別プレゼンテーションでクローズアップされた)。MTA会員には、フルタイムのテクニカルアナリストとその他関係者(アフィリエイトと呼ばれる)が含まれる。月次会合はニューヨークで開かれ、年次セミナーは毎年5月に米国内の各地で開催されている。会員はMTAライブラリーにアクセスでき、パソコンの掲示板も利用できる。月次の会報や定期刊行誌MTAジャーナルが発行されている。何カ所かの地区本部も組織されている。また、MTAは国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)のメンバーである。

 世界に広がるテクニカル分析

 1989年秋、国際テクニカルアナリスト協会の定款の草案を作成するために、何カ国かのテクニカルアナリストの代表が集まり、日本で総会が開かれた。そのとき以来、組織は成長し、20カ国以上のテクニカル分析協会がそのメンバーとなっている。メンバーであることの利点の1つは、年次総会がオーストラリアや日本やパリやローマなどで開催されることである。これは主催者となる組織がセミナーごとに異なっているいるからだ。筆者は1992年にIFTAの会議において世界のテクニカル分析に貢献したとして、初めて表彰されたことを今でも誇りに思っている。

 テクニカル分析の別称

 アメリカでテクニカル分析が利用され始めてから1世紀(日本では300年)も経過し、テクニカル分析はかつてないほどに広く受け入れられるようになった。もちろん、それはいつもテクニカル分析と呼ばれていたわけではない。筆者は、著書『ザ・ビジュアル・インベスター(The Visual Investor)』のなかで、「ビジュアルアナリシス」という呼び名を使用している。これは人々が物怖じするようなテクニカル分析という名称をやめて、価値ある手法にさらに接近してもらおうと思ったからである。読者がそれをどう呼びたいかにかかわらず、テクニカル分析はさまざまな名称で実践されている。割高(買われ過ぎ)や割安(売られ過ぎ)の株式や株式グループを見つけるために、アナリストを雇って市場価格を大量に演算させている金融機関は数多く存在する。このようなアナリストはクオンツアナリストと呼ばれるが、彼らが演算している数字とテクニカルアナリストが演算している数字は同じであることが多い。経済新聞には、「モメンタム」という「新しい」クラスのトレーダーについて書かれている。このトレーダーは、悪いモメンタムを示す株式や株式グループから良いモメンタムを示すものに資金を移動させるトレーダーたちである。彼らは、レラティブストレングスと呼ばれる手法を用いている。もちろん、すでに知っているように「モメンタム」や「レラティブストレングス」はテクニカル分析の用語である。

 ブローカーが判断する「ファンダメンタルズ」には改善と悪化がある。この「ファンダメンタルズ」の変更が、一体何回、重要な「チャート」での上のブレイクアウトや下へのブレイクアウトがあった「あとに」行われたかご存知だろうか。エコノミストたち――もちろん彼らは自分のことをテクニカルアナリストだとは思っていない――にしても、インフレや金利やその他あらゆる経済指標の動向を見るときはいつもチャートを見ている。そして、彼らはこれらのチャートの「トレンド」についての話をする。PER(株価収益率)のようなファンダメンタルズのツールでさえ、テクニカルな側面を持っている。数式に価格を取り入れるときはいつでも、テクニカル分析の領域に足を踏み入れることになっているのである。証券アナリストたちが株式の配当利回りが低すぎると言うとき、なぜ彼らは価格が高すぎると言わないのだろうか。またそれは、市場が買われ過ぎているのとどう違うのだろうか。

 最後に、行動ファイナンスという名のテクニカル分析に新風を吹き込む学問も登場している。何年もの間、学会は、テクニカル分析はまったく機能しないということを証明するために、効率的市場仮説というものを信奉してきた。しかし、最も権威あるFRB(連邦準備制度理事会)でさえ、この考え方に疑問を呈し始めているのだ。

 FRBの最終的な承認

 1995年8月、ニューヨーク連邦準備銀行は「ヘッド・アンド・ショルダーズ――いまだ有効なパターン」というタイトルのスタッフリポートを発表した。このリポートは、FX取引におけるヘッド・アンド・ショルダーズ・パターンの調査を意図して書かれたものである(なお、本書の第1版がテクニカル分析に関する主要な資料として引用された)。その導入部の書き出しは次のとおりである。

「テクニカル分析、すなわち過去の値動きに基づき値動きの予測する手法は、多くの経済学者が主張する『効率的市場』とは相反するものであるにもかかわらず、統計的に有意な利益を生み出している」――C・L・オスラーとP・H・ケビン・チャンのスタッフリポート(ニューヨーク連邦準備銀行 1998.08,No.4)

 1997年、セントルイス連邦準備銀行によって発表された、最近のリポートにおいてもテクニカル分析と効率的市場仮説を比較したメリットについて論述されている(ここにおいても、本書がテクニカル分析の主要な資料として再び引用されている)。「効率的市場仮説再考」という見出しの段落で、著者は以下のように記している。

「前節で示したようなテクニカルなトレードルールの成功事例は、単純な効率的市場仮説では外国為替市場の実際の働きを説明できないことを示す研究ではよく見られるものである。そのような結果は、実際に市場で仕事をしている者たちを驚かせるようなものではなかったが、経済学者たちを市場特性の研究に向かわせたという点では役に立っている。そして、事によると、そのことがテクニカル分析による収益性を明らかにしているのかもしれない」――ニーリー

 おわりに

 模倣することが最高の褒め言葉になるのなら、市場のテクニカルアナリストはそれを光栄に思うべきである。テクニカル分析は、さまざまな名前で呼ばれ、そして、しばしばテクニカル分析を用いているとは自覚していないであろう人々にまで利用されるようになった。いずれにせよ、テクニカル分析は広く利用されるようになった。また、テクニカル分析は進化している。例えば、市場間分析を導入することによって、分析の焦点が「単一市場」から金融市場の間に存在する相互依存関係に向けられるようになった。全世界の市場が結びついているという考えは、もう今日では疑う余地のないことである。こうしてますます結びつきを強めている金融市場の世界では、テクニカル分析という世界言語は特に利便性の高いものとなった。また、コンピューターテクノロジーと高速化したコミュニケーション手段によってますます素早い反応が要求される世界では、市場のシグナルを読む能力は今まで以上に欠かせないものになった。そして、この市場のシグナルを読むという行為は、まさしくテクニカル分析そのものではないだろうか。チャールズ・ダウがテクニカル分析を始めたのは20世紀の初頭である。それから100年がたった今、もしダウが生きていたならば、彼は彼が始めたテクニカル分析を誇りに思うことだろう。



【お詫びと訂正】

402ページの図13.9〜図13.12が間違っていました。
訂正して、お詫びします。
図版はこちら

正しくは、図13.9は図13.11、図13.10は図13.12で、
図13.11は図13.9、図13.12は図13.10でした。


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